ワン・モア・タイム
「はあ〜あ……」

みんなが集まる居間の、壁に掛けられた八月のカレンダーの、
赤丸がつけられた日付けを眺めながら、マイはひとり大きな溜め息をついた。
印の上に、誰かがカラフルなペンで書き加えた『花火大会!』という文字の浮かれ方が
今日はみんなにとって特別な、楽しみな日であることを表していた。

それでもマイは、
大人ぶってはいるけれど、まだ小さいマイは機嫌の悪いときにそれを隠す事などできない。
ふくれっ面のマイは、せめて何か楽しいことでも思い出して気を紛らわせよう、と考えた。

まだ弱冠10歳とちょっとのマイだけど、生きていればそれなりの思い出がある。
特に夏は、マイの人生観を変えた大事な出来事があった季節だ。


――最初にマイの人生を変えたのは、夜店の縁日の関西弁のおじさんだった。

小学一年生の時に、みんなと行った夏祭りの縁日。
ママがいて、お姉ちゃんたちがいて、手を繋いで、何の不安も感じることが無かった。
夕闇の中の夜店の明かりがキレイで、多くの人の賑わいと祭り囃子に無条件に心が弾んだ。

そこでマイは夜店の可愛い金魚に惹かれ、姉たちと金魚すくいに挑戦した。
だけどマイの紙だけがすぐに破けてしまった。

「ねえマイもう一回やりたい」
「またマイの『もう一回』がでたよ」

姉のえりかにそう言ってからかわれた。
普段はみんなで一緒に遊ぶことが多い姉妹七人だが、いちばん年下で、
体も特に小さかったマイは、ゲームをしても何でも姉たちにかなわなかった。

年下だから、小さいからといって勝負をしても手加減してくれる姉たちではない、
むしろマイも含めて、みんな人一倍の負けず嫌いが揃っていた。
だから勝負に負けるたびに「ねえもう一回やろうよ」といって再勝負をねだるのが
マイの口癖であり、それをいつも姉たちにからかわれていた。

その時もマイだけもう一度挑戦したが、今度ももう少しのところで
紙が破れてしまって、金魚はすくえなかった。

「ねえもっかい〜!!」
「もういいよマイ、ウチらはすくえたんだから家に帰ったらこれみんなで飼おうよ」
「でもお……」

優しく姉の舞美が言ってくれたが、納得できないマイが夜店の軒先で駄々をこねていると
縁日のおじさんが、網で水槽の中の金魚をひょいと一匹すくってくれた。

「ええよお嬢ちゃん、可愛いからこれあげるわ。特別やで、特別」

そう言っておじさんが水槽の中でも特別に大きい黒い出目金をくれた。
「いいんですか?」とママが恐縮そうに訊ねていたが、マイは何のためらいも無く
ビニール袋に入れてもらったそれを受け取り元気に答えた。

「おおきに!」

マイの手に下げられた黒くて大きい出目金は、姉たちのどの金魚よりも立派に見えて
とっても誇らしかった。
そしてマイはこの時(女の子は可愛いと得なんだなあ)としみじみ思った。

『女の子は小っちゃく、可愛く、そしてお得に生きていくものだ』

という、マイの最初の人生哲学が誕生した瞬間だった。


……あの金魚をもらった時は本当に嬉しかったな。
思い出し、マイは塞ぎ込みがちな気分が少し和らいだ気がした。
そして再び壁の、カレンダーの横に掛けられている六つの空のハンガーと、
小さな赤い柄の浴衣に目をやり思った。

今年は赤い浴衣なんだ、マイのお気に入りの、あの年の夏と同じ……。


――次にマイの人生を変えたのは、出目金をもらってから何年後かの夏、
   マイが小学校の中学年くらいになった年だ。


「うわー、すごい綺麗」「どれがいいかな!?」「あの赤い柄カワイイ!!」

自宅の居間で広げた七種類の浴衣の生地を前に、姉妹たちの瞳が輝いていた。
成長期の女の子が七人、一年経てば去年と同じ浴衣を着られる子はいなかった。
なのでママは、毎年夏前に浴衣生地を買ってきて、七人分の浴衣を手作りで新調してくれた。

下の子が成長したら、上の子が小さくて着られなくなったのを着せればいいのだが
普段着ではいつもそうやって下の子にお下がりを着せているので、年に一度の浴衣だけは
みんなに新しいのを着せてあげたい、というママの親心だった。

誰がどの柄の浴衣を着るかはじゃんけんで決めたが、マイは一番に負けてしまった。
マイは赤い地に花柄の可愛い生地が気にいってどうしてもそれが着たかったが、
「もう一回」という再勝負の願いはこの時あっさり却下された。
(お洒落に関する女の子の勝負は特にシビアなのだ)

「やったあ、じゃああたしこれ!」

じゃんけんで勝って赤い柄の浴衣生地を手に入れたのは舞美だったが、
マイはまだそれを諦めきれずにしばらく見つめていた。

「……いいよマイ、この赤いのがいいんでしょ?これマイにあげる」

マイの視線に気付いたらしい舞美が、そう言ってマイに赤い浴衣生地を手渡した。

「本当!?」
「うん、あたしもうお姉さんだから、本当はもうちょっと渋い柄がよかったんだ」
「ありがとう舞美ちゃん!!」

(いつも優しい舞美お姉ちゃん大好き!!)
恥ずかしくて口に出しては言えない言葉は、心の中だけで付け加え、
マイは満面の笑みで舞美に答えた。


そして、その夏はみんなで楽しみにしていた花火大会に出かけた。
ママと姉たちと、新しく作った浴衣を着て、ゆっくり歩いて夕方前には花火大会の会場がある
大きな川の川下に着いた。

「今から歩いていけばちょうどいい時間だね」
「今年は近くまで行って大きい花火を見ようね」

愛理と栞菜がわくわくした口調で言った。
二人だけじゃない、「今年は近くで花火を見ようね」とみんな張り切り、
川上にある花火大会の打ち上げ会場まで、河原を歩いていく事にした。

やがて浴衣を着ていてもやんちゃな癖が抜けない千聖が、歩きながら河原の石を一個拾うと
川面に向かってピュッと勢いをつけて投げ、石はピシッピシッと水面の上を二度跳ねて沈んだ。
石を水面で跳ねさせる「水切り」という遊びだ。

「おー、やった!」

千聖が浴衣だというのにガッツポーズをして飛び跳ねていた。
みんなもそれを見て石を拾って川面に投げ始めた。

「やったー、できたー!」「あー、失敗だ」「今の惜しかったのにー!」

マイも挑戦してみたが、マイと愛理とナッキーが投げた石だけがポチョンと軽い音を立てて
そのまま沈んでいってしまった。

「よーし」「今度こそ!」

姉妹たちみんなが「もう一回」となり、歩くのが止まってしまった。
面白そうなことを見つけると真似せずにはいられない、そして何かに夢中になると
他を忘れてしまう、まだまだみんな子供だった。
ママはそれを後ろで静かに見守っていてくれた。
そして誰かが投げた石が、水面の上を滑るように、低くてするどいスピードで、
川の向こう岸まで届くような勢いで跳ね続けていった。

「すごーい舞美ちゃん!!」「ちょっと、今何回跳ねたのー!?」
「へっへっへ〜」

舞美がちょっと照れながら、でも自慢気に笑っていた。
小学校に入学してからすぐにソフトボールを始め、三年間ソフトボールをやったあと
男の子に交じって軟式野球まで始めてしまった体力自慢の舞美は、肩も抜群だった。
そして、そのままみんなでしばらく石投げを続け、愛理とナッキーの石は跳ねるようになったが、
マイだけが何度投げても成功できなかった。

「わぁ、もうそろそろ行こうか、遅くなっちゃう」

ようやく舞美が時間に気をやり、みんなをうながしたが、マイは一人納得がいかなかった。

「やだ、マイまだやる!」
「でも、今年は近くで花火を見るんでしょ?早く行かないと場所が無くなっちゃうよ」
「でもお!」
「じゃあ、もう一回だけだよ」
「うん!」

マイは(これが最後!)と掴んだ石を力いっぱいに川に投げたが、
一度沈んだ石はそのまま水面に姿を現すことはなかった。

「さ、もいいいでしょ?行こ」
「……もう一回やる!!」
「マ〜イ……」

返事も聞かずにただ掴んで放り投げた石は、乱暴な音をたてて沈んだだけだった。

……もう、なんでマイだけできないんだ?
悔しくて、悲しくて、腹立だしくて、よくわからない感情にかられたマイは
何かに当たらずにはいられないように、浴衣の右袖を乱暴に振り回した。

「もう、この袖が邪魔なんだよ!」
「マイ、せっかくママが作ってくれた浴衣なのに!」

いつも優しい舞美のいつにない強い口調に気おされたマイは、
それでも意地になって答えるしかなかった。

「違うもん、この浴衣のせいだもん!こんな浴衣着てるからいけないんだもん!!」
「マイ!!」
「だってえ!!」

そう言って再びしゃがんで河原の石を手に取ったマイを、
舞美はしばらく無言で見つめていたが、やがてプイと向こうを向いてしまった。

「ママ、えり、行こ!」

そして舞美はママとえりかの手をとると、
そのまま花火大会の会場の方へスタスタと歩いていってしまった。

ママが困った表情でマイを振り返っていたのが見えた。
歩いていくママと舞美とえりかを見て、愛理と栞菜とナッキーが迷っていたようだったが、
やがて舞美とママの方について行ってしまった。

「千聖も行けばいいよ、マイはここでひとりで石投げやるもん!」
「でもお……」
「いいじゃん、みんないっちゃえばいいじゃん!!」

ただひとり残ってくれた千聖にも、マイは怒鳴ってしまった。
千聖はそれを聞いて悲しそうにみんなの方に走って行ってしまった。

「……いいもん、マイはここで石投げやるもん!」

そう言ってマイは、日も暮れてきた河原で、ひとりで石投げを続けた。
だけどももう「水切り」を成功させることなど考えていなかった。
頭の中は別のこと、さっき別れた姉たちのことでいっぱいだった。

ふん、なんだよ舞美ちゃんも千聖も。
元はといえば千聖が石投げなんかするからいけないんじゃないか。

……そして、さっきの、悲しそうな千聖の顔が頭に浮かんだ。

いっつも一緒に遊んでくれる優しい千聖、
マイのために浴衣の赤い柄を譲ってくれた優しい舞美ちゃん、
ママが作ってくれた可愛い浴衣、
みんなが楽しみにしていた花火大会、
それなのにつまらない意地を張って、全部を台無しにしてしまって……。

暗くなった河原に寂しく石が落ちる音が響いた。
涙でにじんだ視界に、ぼんやりと川の流れが映っていた。


マイは、このとき、何度「もう一回」と願っても、返ってこない時間があることを知った。


……なんだよ、楽しいことを思い出すはずなのに、何で悲しいことを思い出すんだ!?
おかげでますます気が滅入ってきちゃったじゃないか、
もう起きてるのもシンドくなったマイは、掛けてある浴衣の前で横になった。

何か夏の楽しい思い出、嬉しい思い出……、


ゴホッゴホッ!

居間に敷かれた布団に横になり、本当は今日着るはずだった壁の浴衣を眺めていたら
それまで我慢していた咳が急に出てきた。

「あーあ、マイもいっしょに花火が見たかったな……」

そしてマイの口から、咳と一緒にずっと我慢していた言葉が漏れた。
そりゃ夏風邪なんてひいちゃう自分が悪いんだけどさ、今頃みんなは花火大会を
楽しんでるんだろうなと思うと、不機嫌を通り越してなんだか悲しくなってきてしまった。

せっかく弱音を吐かないように気張ってきたのに、何だか気が抜けてしまった。
そしたら急に体がつらくなってきた気がした。どうしよう、熱も上がってきたみたいだ。
だんだん不安になってきて、とうとう声が出てしまった。

「……舞美ちゃあん」
「どうしたマイ、体ひどくなってきた?」

そう言って、舞美が布団の上に横たわるマイの顔を上から覗きこんだ。
ああ、舞美ちゃんだ。
マイはその顔を見て、声を聴いただけでホッと安心できた。

「ううん、大丈夫。いるかなと思って言ってみただけ」
「なあにそれ、ちゃんといるから」

よかった、ちゃんと側にいてくれたという安心感を感じると、
心の余裕とともに舞美に申し訳ない気持ちが芽生えた。

「……ねえ舞美ちゃん。ゴメンね、マイのせいで舞美ちゃんも花火見にいけなくて」
「何言ってんの、マイひとりで置いていける訳ないじゃん」

舞美が優しい笑顔で答えた。
その言葉を聞いてマイは思い出していた。
ああ、あの時といっしょだ、と。


――ひとりで石投げを続けると意地を張り、暗くなった河原に残ったあの日。
もはや「水切り」の成功なんてどうでもよく、かと言って今さら姉たちを
追いかけていく訳にもいかず、ただ途方に暮れながら川面に石を投げ続けたあの時。

ひとりぼっちの時間はやたらと長く感じた。
やけになり、手に持った石を、川に叩きつけてやろうと
腕を大きく振りかぶった瞬間、遠くから大きな声が聴こえた。

「だめだよマイ、そんなに上から投げてちゃ!」
「……舞美ちゃん!?」

マイが声の方を向くと、舞美がこちらに向かって歩いてきていた。

「マイさあ、そうやって上から投げるからできないんだよ。
 もっと腕を横にして、勢いよく投げなきゃダメだよ」

そう言ってマイの横まできた舞美が、自分の右腕を横からブンブン振ってみせた。

「舞美ちゃん、花火のとこ行ったんじゃないの?」
「向こうの土手のとこから道路に上がって、どこかお店探してたんだよ」

舞美の左手には布の紐が握られていた。

「舞美ちゃん、その紐……?」
「マイ袖が邪魔だって言ってたでしょ、だからこれで袖を縛れば邪魔にならないと思ってさ」

それは帯の下で、浴衣の胴の部分を巻いて締めるための布の紐だった。

「もう、おトイレで浴衣脱ぐのすごい大変だったんだからね」
「……舞美ちゃん、もう怒って行っちゃったかと思った」
「何言ってんの、マイひとりで置いていける訳ないじゃん」
「舞美ちゃん!!」

跳びつき抱きついてきたマイの頭を軽く撫でたあと、舞美は言った。

「さ、やるよ!」
「うん!」
「ちゃんとママに教わってきたんだから。袖のここのところに紐を当てて、と」

舞美は持っていた紐にマイの浴衣の袖を巻きつけると、それをマイの体に回しはじめた。
マイはその時、舞美に謝らなきゃいけないと思い口を開いた。

「ねえ舞美ちゃん、マイさあ……」
「ただのわがままじゃないって知ってるよ。
 マイはさあ、みんなができる事は自分もできないと嫌なんでしょ?」
「……」
「それでみんなの足手まといになるのが嫌なんでしょ?」
「…………」

小さい頃から七人全員で遊ぶことが多かった。
みんなでいろんな遊びをした。

まだ小さいからできない、と言われるのが嫌だった。
マイがいる方が負ける、と言われるのが嫌だった。
足手まといが嫌だった。邪魔になるのが嫌だった。だから必死にみんなに追いつきたかった。
だからつねに「もう一回」って言い続けて……。

「舞美ちゃん……」

マイは泣きたくなったが、自分の体を見たらそれどころではなかった。

「たしか、こうして、こうするんだよ……、あれ!?」

マイの体は、舞美の不器用な手付きで巻かれる紐でグルグル巻きにされていた。
もう、ここは泣かす場面じゃないのかよ!?
そしてマイの感動も憤りも、いつもの舞美のアバウトな一言で締めくくられた。

「おっかしいなあ……。ま、いっか!」

きっと「たすきがけ」ってのをしたいんだろうな、とマイは思っていたが
出来上がった形は、とてもそうは呼べない不恰好なものだった。
それでも、浴衣の袖ごとマイの体に、舞美の力で強引に締められた紐で、
体だけは窮屈だがマイの右腕は全然楽に動くようになった。

「さ、これで袖は邪魔にならないよ。
 これで、さっき言ったみたいにもっと横から投げてみな」
「うん!」

「もうちょっとじゃん!マイさあ、腕に筋肉ないから力で投げようとしてもダメなのよ。
 もっと力を抜いて腕をしならせるみたいに投げてみな」
「うん!」

「おしーい!そしたら今度はもっと腰からひねるように投げてみな」
「……よーし!!」

一投ごとに段々上達していく感触を感じたマイが気合を込めて投げた次の石は、
ヒュッという今までとは違う手ごたえとスピードで、水面を見事三回跳ねてから姿を消した。

「やったあー!!」「できたじゃんマイー!!」

マイと舞美が飛び上がって喜ぶと同時に、二人の後方から歓声が上がった。

「おめでとー!!」「さっすが!!」「やったじゃんマイ!!」

マイが驚いて振り返ると、河原の後ろの土手のところにママと姉たちが立っていた。
千聖がガッツポーズをしていてくれた。ママが微笑んでいるのが見えた。
そのとき、まばゆい光とともにドーンという大音響が河原に鳴り響いた。
川上で花火が打ち上げられる時間だった。

「うわー」「きれーい」

みんなが花火に目を奪われた。
今ならさっき言えなかったことが言える気がする。
マイは隣で花火を見上げる舞美の顔を見て言った。

「……舞美ちゃん、さっきはごめんね」
「ううん、何てことないよ。それよりさあ、花火ここからでも充分綺麗だね!」
「うん!」

……後悔は、過ぎた時間は、返ってこないかもしれない。
けれどもマイは、この日「失敗をやり直す時間なら必ずやってくるんだ」ということを知った。

後ろに温かい家族を感じて、大好きな舞美と手を繋いで見上げた綺麗な花火。
忘れられない夏になった。



「ちょっとマイ、何で寝てんの!」

舞美の大声に慌ててとび起きたマイは、寝ぼけ眼であたりを見回した。
浴衣を着たお姉ちゃんたち、赤い浴衣、カレンダー、花火大会……、

「ああ、そうだ、今日は花火大会!!」

思い出した。みんなが浴衣の着付けをしてもらってる間に、あんまり退屈なんで
昔のことを思い出してて、そのうち寝ちゃったんだ。

「そんなとこで居眠りしてて、去年みたいに夏風邪ひいてもしらないからね」
「そうだよ、今年こそみんなで花火大会に行くんでしょ?」

えりかと舞美があきれて言った。

「だってマイの番、遅いんだもん!!」
「マイが自分で浴衣は窮屈だから一番最後でいいって言ったんじゃん!」
「はい、はい、機嫌直して。浴衣着せてあげるからそれ持ってきな」
「……うん!」

悔しい、ずっとむかついてたのにあっさり言い返された。
……でも、何か大事なことを思い出せた気がするからいいや。

おととしの夏、マイに河原で石投げを教えてくれた舞美ちゃん。
去年の夏、風邪をひいて寝ていたマイとずっと一緒にいてくれた舞美ちゃん。

今年も大好きな赤い柄の浴衣だ。
マイは着付けをしてくれる舞美の顔をじっと見つめていた。

「何笑ってるのよマイ、もう機嫌直ったの!?」
「ふーん、別に!」
「こっのー!」

口ではそう言ったが二人とも笑っていた。


「みんな浴衣着たね?忘れ物ないね?じゃ、行くよー」
「おー!」「屋台も見ようね!」「楽しみ楽しみー」

舞美の号令でみんなで家を出た。

「ねえ、そこまでみんなで手繋いでいこうよ」
「いいよ」

マイの提案で、大通りに出るまでみんなで手を繋いで歩くことにした。

……今年はママがいないけれど、マイを包んでくれる大きな愛は変わらない。
遠くから、かすかに祭り囃子が聴こえてきた。
マイの心は、あの時のように弾んでいた。

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