Mother Tells
妹たちも寝静まり平穏を取り戻す矢島家
年長の二人は思い出話に花を咲かせる
「えり、この写真見て」
「なにー」
「ほら、舞が全然サイズ会わないのに
母さんの服着て」
「あぁ、裾擦りながら歩いて」
『早貴にお掃除ご苦労様ってからかわれた』
2人同時に発した言葉に当時の光景が蘇り
顔を見合わせ苦笑する
「フフ、でもあの後大変だったよね。
えりが必死で千聖なだめて」
「お母さんの服汚すなーって
ホントに舞に飛びかかりそうだったよね」
「舞も千聖も母さん大好きだったからね…」

「学校の屋上から鳥居が見えるでしょ」
「あの山のてっぺんにあるやつ?」
「そうそう」
「でね、その鳥居にお供え物持って行くと」
「行くと?」
「会いたい人に会わせてくれるんだって」
「ウソー」

少女達の他愛もない噂話
でもそれは千聖を突き動かすには十分過ぎた
「お母さんに会える」
嬉しくなって何度も何度も繰り返し呟いた
通い慣れた通学路を一気に駆け抜ける
「早くみんなに教えてあげなきゃ」


「あ〜あ、つまんなーい」
舞はお気に入りのサングラスをいじりながら
とぼとぼ家路につく
お母さんが死んでから灰色の日常が続く
楽しかったはずのクラスメイトとの会話も
今はなんだか外国の言葉みたいに聴こえる

舞美ちゃんやえりかちゃんはお母さんなんて
いなかったみたいに普通にしてるし
ナッキーや栞菜ちゃん、愛理ちゃんも毎日楽しそうにヘラヘラして……
「みんな、嫌い」
そう言った直後、背中に何かがぶつかった
「いたーい」
振り返ると千聖がいた
思わず睨みつける
「ごめん。急に止まれなくて。」
「千聖、ちゃんと前みて走れー」
「それどころじゃないよ舞ちゃん、実はね……」

千聖の話に舞はすっかり魅了された
興奮覚めやらぬ舞は
「今すぐ行くー」とまるで駄々っ子のように
手をぶーんと振り回す
「駄目だよ。お姉ちゃん達も誘わなきゃ」
「やだ、やだ、やだー。今すぐ行く」
「それに今日はもう遅いし、暗くなっちゃうよ」
千聖は渋り続ける舞の手を引いて我が家へ急ぐ


深夜の矢島家
2人の会話は続く

「えり、そういえば千聖と舞がお母さんに会えるんだって
言い張った時あんじゃん」
「うんうん、千聖が変な噂聴いてきてね
うちらも一緒に行こうって」

「まさか、あそこまで真剣だったなんて思わなかったよ」

興奮で顔を真っ赤にしながら千聖が
一生懸命語る姿が目に浮かぶ
「舞なんて怒りっぱなしで」
「やっぱりみんなお母さんの事なんて
どうでもいいんだとか言って」
「うちちょっと後悔したよ
もっと真面目に聞いてあげればよかったって」

2人の記憶はその後に起こる小さな2人の冒険にたどり着く

「ほら、昨日あのまま2人で行けば良かったじゃん」
姉達に鳥居の話をした翌日
舞は不機嫌そうに千聖を責めた
「だってさぁ、みんなで行った方がお母さん喜ぶと思って」
俯きがちに千聖が答える

「もぉいい、2人でいくから」
舞はカバンから自らカワイイと公言してはばからない
ドクロ型の貯金箱を取り出し、徐に地面に叩きつけた
「いくらあるかなぁ」
舞がお手伝いしてこつこつ貯めた硬貨
「えーと、910円だね」
散らばった硬貨を拾い上げる千聖
「舞ちゃん。これじゃお供え物買ったらおしまいだね」
「いいもん。歩いて行くし」

矢島家では2人の会話がなお続く

「鳥居につく迄も大変だったみたいだね」
枝豆をつまみながらえりかが語りかけた
「うん。ほら舞って猫が苦手じゃん」
「ほぅらっけ」
「フフフ、食べてから喋りなよ」
舞美に指摘されえりかは照れながらも口の中の枝豆を飲み込んだ
「そうだっけ」
「そうだよ。それでね、鳥居に行くにはどうしても
通らなきゃいけない小道があるんだけど」
「あー思いだした」

「ネコきらーい」
細い一本道に我が物顔で寝転がったドラ猫
それを一目見るなり立ち止まり舞は同じ台詞を繰り返した
「舞ちゃん。大丈夫だって
私が見本見せるから付いてきて」
そう言うと千聖はあっさりネコを飛び越えた
「ほら、動かないよ。こっちおいでよ」
「聞こえなーい」
舞は耳を自分の手で塞ぎだだをこねた
「お母さんに会いたいんでしょ
早くしないとおいていくよ」
舞は「お母さん」と言う言葉に反応し微かに歩を進める
「そうだよ。舞ちゃんがんばれー」
千聖の声に後押しされ舞は高く飛んだ

国道を一本入った静かな場所にその山はあった
「あとちょっとだ。頑張ろうね、舞ちゃん」
「言われなくても頑張るし」
先程の件で何となく千聖に子供扱いされた気がして
膨れっ面で答える舞
「どっから登るんだろうね」
キョロキョロ辺りを見回しながら千聖が言う
「あったー。千聖ここだよ」
舞は手招きしながら嬉しそうに千聖をよんだ
『うわぁー。長い』2人は鳥居まで続く長い長い階段を見つめ息を飲んだ

2人は「お母さんに会える」その一心だけで階段を登り続けた

空が夕焼けで真っ赤に染まる頃2人は鳥居へたどり着いた
「ここだね」
「あっ、千聖。鳥居の横に台があるよ」「ホントだ。其処にお供え物置こうよ」舞はポケットから大事そうにそれを取り出す
2人で選んだお母さんが好きだった桜の花のブローチ
安っぽい玩具だけど2人の気持ちの籠もったそれを台に置く
「お母さんに合わせ下さい」
「お母さんに合わせ下さい」
2人は心から願った

いくら待っても変化は無かった
「何でお母さん来ないのー。舞の事きらいなのかなぁ」
舞は大粒の涙をこぼしながら地面にへたり込んだ
「お母さん…」
千聖も今までの疲れがどっと押し寄せ舞の隣に座る

夜の訪れを知らせる虫の声
2人はただただそこに座り続けた

「ちさとー、まいー」
微かに聞こえるその声に2人は立ち上がり周囲を見渡す
「舞ちゃん、なんか聞こえるよ」
「ほんとだ」
声は段々近ずく
「千聖ー、舞ー」
階段を駆け上がる複数の人影が2人の目にとまる

「やっぱり、此処にいたんだね」
真っ先に鳥居にたどり着いた影が語りかける
「舞美ちゃん…。」
「すごい心配したんだからね」
そう言って舞美は2人を抱きしめた
舞美の背中ごしに姉妹達の姿が見える

「見て、桜が咲いてる」
鳥居の先には狂い咲きの桜が


(いつも一緒だよ)
舞い散る桜の花と共に母の声が姉妹達に届いた気がした


2人の会話は続く

「あの時の声、何だったんだろうね」
舞美は散々姉妹で議論しつくされた話題を持ち出す
「わかんない。わかんないけど
千聖と舞の願いが母さんに届いた
それでいいじゃん」
「うん。そうだね」

ジリリリリ
妹達の目覚ましが一斉に朝の訪れを告げる

「えり、みんな起こしてきて」


あの日以来あの鳥居に行くのが矢島家の恒例行事となった
母の声が聞こえる事はもう無い
だけど姉妹達のそばには大好きな母さんがいた


「ほら、いくよー」
舞美のかけ声に

『おー』

千聖と舞のは満面の笑みで答えた
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