たこ焼きクルリ
ザワザワザワ…

多くの人で賑わう夕方の駅前に、ナッキーはポツンと一人で立っている女性を見つけた。
モデルのような長身に抜群のスタイル、ハーフにも見える大人びたルックスは
とても16歳には見えない、多くの人が行き交う駅前でもかなり目立つ存在だ。

遠くから見ていると、その女性の前を通りすぎた男の人達が必ずチラと
振り返って見ていくのがわかって可笑しかった。
(黙って立っていると抜群の美人なのにな)などと考えていると、
その女性がこちらに気付いて手を振った。

「ナッキー、こっちこっち!」
「お待たせ、えりかちゃん!」

大きく手を振る姉えりかに走り寄って答えるナッキー。
今日は学校帰りのナッキーとえりかが駅前で待ち合わせ。これから一緒に
ショッピングセンターに寄って夕ごはんのお買い物をするのだ。

両親がいない℃-ute家では、御飯の支度はえりか・舞美の姉二人の役目。
『えりかと舞美が交代で御飯を作り、その日用事が無い妹達が順番で手伝う』のが℃-ute家のルール。
今日は料理上手なえりかが御飯を作り、ナッキーがお手伝いをする日だ。


「美味しそ!ねえナッキーこれも買おうよ」
「えー、そんな高いものいらないよ」

ショッピングセンターで、料理上手だがついつい何でも買いすぎちゃう無駄遣いえりかと、
一家の会計係として計算して財布の紐を締めるナッキーは実は最適な組み合わせ。
あれこれ悩んで献立を決めるのは大変だけど、女の子には楽しい時間だ。

「…じゃあ、今日は久しぶりにオムレツでも作ろうか」
「わー、やったーー!嬉しいケロ!」

えりかが作る特製オムレツは自家製ソースの味付けが絶妙で美味しい、ナッキーの大好物だ。
オムレツに限らず、料理上手なえりかの料理は何でも美味しい。

そんなえりかとは対照的に、舞美姉さんの料理は『小さじ〇杯』とかいう微妙なサジ加減など
気にしない大雑把…、もとい大らかな性格で「大体こんな感じ」「調味料ザー!!」「ま、いっか」の
いつも適当目分量、味付けは極端に甘いか辛いかのどちらかに。
それで妹達の人気はいつも料理上手なえりかが御飯を作る日に集中してしまうのだ。
(ゴメンね舞美ちゃん)と心の中で思いながら、ナッキーは今日の晩御飯が楽しみになった。


「ねええりかちゃん、抽選券もらっちゃったから福引き一回できるよ」

買い物を終えると福引の抽選券がもらえた。
このショッピングセンターでは今福引セール中のようだ。出口の横に福引の抽選会場があった。
「どうせ当たらないよ」というえりかを余所に「せっかく引けるんだからやってみようよ」と
福引きに挑戦するナッキー。抽選券を渡し、勇んでガラガラを回してみる。

カランカランカランカラン!!
「おめでとうございまーす!!」

はっぴを着た店員さんが鐘を鳴らしてくれた。何か景品が当たったようだ。

「やったあ、えりかちゃん!!」
「すご〜〜いナッキー!!」

喜ぶえりかとナッキー。

(御飯は大好物のオムレツに福引きでは当たり!今日は何かツイてる!!)
そう浮かれるナッキーは、その福引きがナッキー達姉妹に
かつてない悲(喜?)劇をもたらすことにまだ気付いていなかった…。


「ただいまー」
「お帰りなさーい」「…ねえそれ何!?」

買い物を終えたえりかとナッキーが家へ帰ると、出迎えてくれたのは
もう帰ってきていた小学生の千聖とマイだけだった。
ナッキーが抱えていたそれを目ざとく見つけてマイが訊いた。

「これ福引きで当てたんだよ、ほら家庭用のたこ焼き器!!」

ナッキーが福引きで当てたそれを見せた。
家庭で作れる電気式のたこ焼きホットプレート器だ

「うわー、やったじゃん!!」「すごーいナッキー!!」

盛り上がる千聖とマイにナッキーはちょっと誇らしげだ。
が、そこからは思わぬ展開になってきた。千聖が言った。

「ねえ今からたこ焼き作ってみようよ」
「でも今からたこ焼きなんか食べたら夕ごはん食べられなくなっちゃうよ、
 今日はせっかくの特製オムレツなのに」

えりかのオムレツが楽しみなナッキーは心配顔になったが、えりかが答える。

「そんなに量作らなきゃいいじゃん、それにみんなで食べればちょっとずつだよ」
「でもえりかちゃんたこ焼き作れるの?」
「大丈夫よ、ちゃんとたこも買ってきたし、あとは家にあるもので作れるから」

多分自分もたこ焼きが作ってみたかったのだろう、
えりかは帰りにわざわざもどってたこを買ってきたのだ。

「じゃあ、みんなで、たこ焼き作ろーーー!!」
「おーーー!!」

ああ何か盛り上がっちゃった。
でもいいか、たこ焼きも好きだし、作るのも初めてで楽しそうだ。
自分も楽しもう、とナッキーは思った。


えりかが溶いた卵と小麦粉を昆布のだし汁でとかして、
サラダ油を塗って温めておいたプレートの穴に流し込む。
ジュワワーー!!
熱した鉄板の上に音が響く。

「うわぁ、いい音!」「アチチ、はねたぁ!」「あ、溢れちゃうよ!」
「大丈夫 大丈夫!」

盛り上がる四人、やっぱりみんなで何かをするのは楽しい!
次に一口大に切っておいたたこと天カスを均等にバラまく。
粉がだんだん固まっていく。

「すごーい、ちゃんとクルンッてひっくり返す針のやつも付いてるよ」
「ねえ誰がひっくり返す?」
「千聖はダメー、不器用なんだもん」

千聖が問うと即座にえりかが否定した。千聖は姉妹一不器用なのだ。

「そうだナッキーやってみなよ」
「えーあたし出来るかなー!?」

自信無さげなナッキーだったが、えりかに言われピックを粉に引っ掛けると
器用な手付きでくるっとひっくり返す。

クルンッ!
するとほんのろ焼き色が付いた奇麗な半円が鉄板の上に顔を出す。

「オ〜〜〜〜!!」
「ナッキー上手い!!」
「プロだねナッキー!!」
「エヘへへへ、そうかなあ…」

照れながらもヒョイヒョイたこ焼きを裏返していくナッキー。

「ねえ千聖もやっぱりやってみたい」
「いいよ、やってみな」
「えへへ、いくよ…」

グチャ!
あまりにも簡単そうにナッキーがひっくり返すので自分も出来るのではないかと
思い挑戦した千聖だが、たこ焼きはひっくり返らずに形を崩しただけだった。

「あはははは」「千聖へたくそ〜〜」

えりかとマイに思い切りバカにされる千聖。

「いい千聖こうやるんだよ、見てな」

ピックを手に見本を見せようとするえりか。
だが、

…グジュ!
たこ焼きは千聖と同じく無残に崩れただけだった。

「…あ、あれ!?ちょっと待って、こんなはず無いんだから」

慌てたえりかが残りのたこ焼きにもピックを引っ掛け回すが、やはり成功しない。
結局残りのたこ焼きも全部崩れてしまった。


「ハフハフ、…あちち!」「形はちょっと悪いけど美味しいね」
「うん美味しい、さすがえりかちゃん!」「……うーん」

出来たたこ焼きを満足気に試食する四人。
だがえりかは何故か無口だ。自分のたこ焼き作りに納得いかないらしい。

「…ねえもう一回作ってみようよ、今度はうまく引っくり返すから」

えりかがそう提案する。

「だって舞美と愛理と栞菜の分も無いと可哀相じゃん」
「それもそうだね、あたし達だけ食べたんじゃ悪いもんね」

そう言って再びたこ焼き作りをするえりか達。
だが、ナッキーは悪い予感がしはじめた。

「いい?今度こそあたしがちゃんとひっくり返すんだから」

そう言ってえりかが再び焼けたたこ焼きにピックを入れるが、
今度も形が崩れるだけでうまく返らない。
結局全部失敗してしまった。

「………」
「何度かやってるうちに上手くなるよ」
「そうだよ、また今度やってみようよ」

えりかを慰める妹達だが、えりかはめげてはいなかった。

「もう一回作る!今度こそ絶対上手くいくんだから!!」
「え〜〜〜〜〜っ!?」
「大丈夫だって今度はうまくいくもん!!」


結果、形の崩れたたこ焼きの山ができただけだった。
だが、これで気が収まるえりかでは無い事をナッキーは知っている。

「…ねえもう一回作るう!!」

すっかりだだっ子になったえりかを諭すようにナッキーが言う。

「だってもうたこ無いよお」
「いいもん舞美に買ってきてもらうもん」

そう言って舞美のケータイへ電話をするえりか。

「あ、もしもし舞美?帰りにたこ買ってきて!
 …え!?うん、たこ焼きするから、たこ焼き。じゃあね」
「でもこれ以上作ったら御飯食べられなくなっちゃうよー」
「大丈夫、大阪の人はたこ焼きを御飯にしてお好み焼きを食べるんだから」
「何かそれ微妙に違うし意味わかんないし…」

もうつっこむのも疲れてきた。が、最後にナッキーは聞いた。

「…でもオムレツはーー!?」
「もうオムレツする分の卵使っちゃったから無理!あとはたこ焼きに入れる分しか
 残ってないもん」
「え〜〜〜!?」

…あああとうとう思ってた通りになってしまった。

ピースサインが大好きで、争い事が嫌いの平和主義、
なのに実は姉妹で一、二を争う負けず嫌い!
見た目は二十歳のモデル並、誰より綺麗で大人っぽい、
しかし中身は誰よりも子供!
昔からゲームをしたら勝つまでやめない、マイが相手でもムキになる。
それがえりかちゃんだから。

…ナッキーはいく所までいく覚悟をした。


「ただいまー、ごめんね遅くなってー」
「お腹空いちゃったー、今日のごはん何、な・に・・・!?」

やがて帰宅した栞菜と愛理をキッチンで出迎えたのは、
テーブルの中央、大皿いっぱいに高く盛られたたこ焼きの山だった。

「何このたこ焼きーーー!?」
「あ、これ今日の晩御飯だから。美味しいからいっぱい食べて!」

驚く愛理と栞菜に、ようやく形が綺麗に作れるようになったえりかがご機嫌で答えた。

「ま、いいや、美味しそうだし…」「いただきまーす…」

不気味に感じながらもたこ焼きを口に運ぶ栞菜と愛理。
でも舞美ちゃんがまだ帰ってこないのに何故まだたこ焼きが作れたんだろうか?
その答えを知っているナッキー達は手を出さないで栞菜と愛理の反応を見つめる。

「…すっぱ!!まっずーーーい!!何これ梅干しィ!?」
「いやーん温かいさくらんぼ!気持ち悪いーーー!!」

予想通りの反応だ、可哀相に。だってとりあえず赤くて小さい食べ物入れただけだもんな…。
だがえりかは平然と答える。

「途中でたこ足りなくなっちゃってさ。でもいいじゃん、ちゃんと食べられるモノ入れて
 あるんだから!ちゃんとみんなの好物も入れたんだよー、はい栞菜コレ食べて!!」

そういって嫌がる栞菜の口にたこ焼きの一つを入れてあげるえりか。

…ガリッ!!
「ギャーー何か噛んだッ!!甘!!まず〜!!何これーーー!?」
「ごめんね栞菜、メロンは無かったから代わりにメロン味のキャンディーで」
「キャ、キャンディーーー!?」

栞菜ン、ゴメンね教えてあげられなくて。
でも今のリアクション面白かったよ!などともうすっかり他人事のように楽しんでいた
ナッキーだったが、やがて自分にも順番は廻ってきた。

「ナッキーも千聖もマイも食べてよお、まだこんなにあるんだよ」
「でももういっぱい食べたし食べられないよお…」

弱音を吐く妹達に、だがえりかは非情に答えた。

「いいもん、残したら明日のお弁当に入れるんだから!」
「え〜〜〜〜〜〜っ!?」

一斉に驚く姉妹達。

「嫌だお弁当にたこ焼きなんて恥ずかしいーー!!」
「絶対に嫌だーーー!!」

結局、無理やり食べるしかない事に。

「何これ、えだ豆ーー!?」
「痛ッ!これイチゴ味のキャンディーだーー!!」
「でも形は奇麗でしょ?プロみたいでしょ?」

口の周りを青のりとソースだらけにした妹達がたこ焼きと苦闘する中、
えりかは一人満足気だった。


「ただいまー!!」

みんながようやく大量のたこ焼きを食べ終わった頃、
やっと舞美が帰ってきた。

「ごめんね遅くなってー、だって急にたこ焼き買ってきてなんて言うんだもん。
 はい、美味しいお店探してたこ焼きちゃんと七人分買ってきたわ、よ…、
 え!何!?何!?」

みんなの視線が冷たい。

「ちょっと舞美ちゃん…」
「たこって言ったのに、何でたこ焼き…!?」
「ウソ〜〜、なんか電話でたこ焼きって言ってたじゃ〜〜ん!?」

嗚呼、とぼけた姉がもう一人。
誰かが叫んだ。

「もうたこ焼きいらな〜〜い!ゲプッ!」
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